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大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)861号 判決 1958年5月19日

控訴人 石川秀雄

被控訴人 栄和鞄嚢株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

控訴人が被控訴人に対し二〇萬円の担保を供すれば原判決の仮執行を免れることができる。

事実

控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の免脱の宣言を、被控訴人訴訟代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用書証の認否は、控訴人訴訟代理人において「管轄違の抗弁は撤回する。被控訴人主張の債権の支払期は争わない。相殺の抗弁の提出は訴訟の係属を来さないから二重訴訟となるものではなく、本件相殺の抗弁の自動債権を訴訟物とする別訴は、原審において同一裁判所の同一の部に係属していたから、これを本訴と併合するか併行して進行することにより両者間の矛盾した裁判を避けることができた筈であつて、民事訴訟法第二三一条の法意に反することはない。」と述べ、乙第六号証を提出し、被控訴人訴訟代理人においてその成立を認めた他は、すべて原判決事実摘示と同一であるからそれを引用する。

理由

被控訴人が鞄類の卸売商で控訴人がその小売商であることは控訴人の明かに争わないところで自白したものとみなされる。控訴人が被控訴人に対し昭和二八年一一月一六日現在において鞄類の買受代金残債務七、八九〇円を負うていたところへ、被控訴人主張の期間の主張の商品を買受けた代金債務六七九、一五〇円を加え合計六八七、〇四〇円の債務を負担していること、その支払期が買受けた月の末日であることは当事者間に争がない。

よつて相殺の抗弁につき考えるのに、控訴人主張の自動債権につき被控訴人に対し訴求中であることは控訴人の認めるところであるが、相殺の抗弁につき判断を受けその判決が確定すれば既判力を生じることは民事訴訟法第一九九条第二項の明定するところであるから、その抗弁の提出は、訴訟経済の面から見ても、既判力の矛盾を来すおそれのある点から考えても、更に訴訟上の請求権の主張として時効中断の効力ありと解すべき点にかんがみても既に訴の係属する債権をもつてする以上、二重の提訴に準じて視るべきものと解するのが相当であつて、たまたま前訴が同一裁判所に係属するからといつて同時に裁判されるとは限らず、さすれば訴訟資料の相異又は担当裁判官の交替等の事由により両者につき判断を異にする結果はありうべく、又控訴審が同一裁判所の担当となり同時に判断されることは保証されていないから、右同様の結果を見ることも予想されるのであるから(現に本件はそうなつている)この点に関する控訴人の主張は当らないので、控訴人主張の反対債権の存否につき判断するまでもなく右抗弁は採用できない。

よつて被控訴人の請求は正当であり、これを認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条仮執行の免脱につき同法第一九六条第二項を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 大野美稲 石井末一 喜多勝)

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